修繕積立金とは?相場が値上がりする理由と4つの使い道を解説

不動産を知りたい

「マンションを購入すると必要になる修繕積立金って何?」「修繕積立金の相場はいくら?」など、集合住宅に住む上で必要になる費用について気になる方もおられるでしょう。

修繕積立金とは、将来的に行われるマンションの修繕工事のために積み立てる費用のことです。

一般的には、マンションの戸数が多くなるほど建物の規模も大きくなります。そのため、マンション全体の大規模な修繕工事を行うためには多額の費用が必要です。
お住まいの地域や建物構造など、さまざまな条件によって積立金の額は異なります。各区分所有者(マンションの居住者)が費用を積み立てておき、工事に備えることが修繕積立金を徴収する目的です。

この記事では、修繕積立金の主な使い道や値上がりするケースの具体的な例などを解説していきます。
マンションの購入を検討中の方や修繕積立金の相場を知りたい方はぜひ最後まで読んでみてください。

修繕積立金とは「マンションの建物や設備を修繕するために積み立てる費用」を指す

修繕積立金は、マンションの大規模な修繕工事に備えて居住者が支払う費用です。

マンションの区分所有者である居住者全員が支払った金額を管理組合が積み立てていきます。新築から年月が経過したマンションは、建物や設備が老朽化していくため、建物の完成時から十数年後に行う大規模修繕をあらかじめ計画しておくケースが多くみられます。

各住戸内(居住者の部屋)の専有部分に関する費用は区分所有者が負担することになっていますが、共用部分にかかる費用は全員で負担することが定められています。区分所有者全員で負担する費用の一つに管理費がありますが、こちらは清掃やゴミ処理などの日常生活で使用される費用です。

建物全体の修繕をはじめ、エントランスやエレベーターなどの共用部分の修繕は高額になることが多いため、長期間かけて所有者で修繕積立金を積み立てておく必要があります。

マンションを購入するタイミングや建物構造、築年数などで工事や修繕にかかる費用は異なるので、事前に月々の修繕積立金の額を把握しておくことが大切です。

参考:首都圏中古マンションの管理費・修繕積立金(2023年度)(公益財団法人 東日本不動産流通機構)

修繕積立金の相場は建物の立地や総戸数などの条件で決まる

修繕積立金の金額は、建物の規模や立地、総戸数などのあらゆる条件を考慮して設定されます。

物件によって修繕積立金の額は異なりますが、全国の平均的なデータを把握することで実際にマンションを購入する際の参考になります。

国土交通省が公表している平成30年度マンション総合調査結果からみたマンション居住と管理の現状によると、一戸あたりの月々の修繕積立金の平均額は、11,243円となっています。

例えば、毎月1万円の固定費が修繕積立金の費用として発生する場合は1年間で12万円。10年間で120万円の出費になります。また、賃貸住宅の敷金とは異なり、修繕積立金はマンション全体の修理のために支払っていることから基本的に返金してもらうことができません。

したがって、長期的な視野でマンションを購入する際にかかる費用と戸建住宅にかかる費用を比較した上で住まいを選ぶことが重要になります。

新築よりも中古マンションの修繕積立金が高い傾向にある

一般的には、新築マンションよりも築年数が経過した物件の修繕積立金が高くなるケースが多くみられます。

マンションの完成年次別の内訳を比較してみると、平成22年以降に建設されたマンションの積立金の額は平均よりも低い傾向にあります。新築マンションの修繕積立金は、将来に向けて少しずつ値上がりする段階増額積み立て方式を採用するケースが多いからです。

また、新築マンションを分譲するタイミングでは、十数年後に必要な大規模修繕にかかる費用が明確でない場合があります。建物が建設された時期と、修繕や工事が行われるタイミングが異なることから、予定していた金額では積立金が足りなくなるケースも考えられます。

さらに、「当初予定していたよりも早く修繕する必要がある」「現在の徴収方法では大規模修繕の際の費用が足りない」などの理由から中古マンションの修繕積立金の額が高くなる可能性も考えられるでしょう。

そのため、新築や築浅のマンションの購入を検討している場合は、建物の築年数が経過するにつれて修繕積立金の額が増えることを想定しておくことが大切です。

参考:平成30年度マンション総合調査結果からみたマンション居住と管理の現状(国土交通省)

修繕積立金の適正金額は建物構造によって異なる

修繕積立金として積み立てられる金額は、国土交通省が定めるガイドラインにより平均値が定められています。
マンションによって修繕積立金の額は異なりますが、事前に積み立てる金額の目安を把握しておくことは重要です。

専有面積あたりの修繕積立金額(月額)の平均値は、建物が20階未満の場合は252円~335円/㎡、20階以上の高層マンションにおいては338円/㎡となっています。

また、実際にマンションを購入する場合の修繕積立金の目安は以下の通りです。

Y = A x B

Y:購入予定のマンションの修繕積立金額の目安
A:専有床面積あたりの修繕積立金の額(月)
B:購入予定のマンションの専有床面積(㎡)

例えば、20階建ての建築延床面積7,000㎡のマンションを検討中で、部屋の専有面積が70㎡の平均値の目安を計算します。

Y = A (338円/㎡) × B (70㎡) = 23,660円

なお、上記に示した金額は平均値の目安であり、マンションの建物構造や延べ床面積の広さによって適正金額は異なります。実際にマンションの購入を検討している方は、修繕積立金の積立額や現在の状況を不動産会社やマンションの売主に確認することをおすすめします。

また、機械式駐車場があるマンションは、機種ごとに月額の修繕工事費が設定されるなど、建物の条件によっても修繕積立金の額は異なります。詳細についてはマンションの修繕積立金に関するガイドラインをご確認ください。

修繕積立金の主な徴収方法

修繕積立金を徴収する方法は、主に2つあります。

「新築や築浅の段階では徴収する額を低く設定して、後から増額して積み立てる」段階増額積立方式と、「一定の金額を積み立てていく」均等積立方式があります。

2つの修繕積立金の徴収方法を簡単な図で表すと以下の通りです。

上記の図から分かる通り、タイミングによっては必要な修繕積立金の額が異なる場合があります。
ここでは、2通りの積み立て方式について詳しく解説していきます。

段階増額積立方式

段階増額積立方式は、新築当初の積立金の額を抑えて、建物の築年数の経過に合わせて段階的に値上げしていく方式です。

マンションの建物や設備は時間が経過するにつれて経年劣化していくため、修理や工事が必要になる場合があります。新築当初は建物の維持管理にかかる費用が少ないことや、入居者にメリットを感じてもらうことなどが積立金を抑える理由です。

国土交通省が作成した長期修繕計画作成ガイドラインによると、修繕積立金を積み立てる計画期間は30年以上で、かつ大規模修繕工事を2回行うことを含むことが推奨されています。

一般的には12~15年に1度行われる大規模修繕工事に向けて修繕積立金を積み立てていくことが多いため、修繕工事の時期が近づくにつれて積立金を増額するケースが多く見かけられます。

日本の新築マンションの建設時には、段階増額積立方式を採用する場合が多いので、中古マンションの購入を検討する場合は現在の修繕積立金の額をあらかじめ確認しておくことが重要になります。

また、区分所有者全員が長期間に渡って支払いが続けられる積立金の額に設定する必要があるので、増額のタイミングや値上げの幅に関しては慎重に進める必要があるでしょう。

参考:長期修繕計画作成ガイドライン(国土交通省)

均等積立方式

均等積立方式は、マンションの建物や設備の管理に必要となる費用を新築当初から均等に積み立てていく方式です。

マンションの大規模修繕工事を適切なタイミングで実施するために積立金を区分所有者から集める期間は長期に渡ります。

均等積立方式を採用する場合は、新築当初から住んでいる人も、築年数が経過したタイミングで購入した人も同額を支払う必要があります。

そのため、新築・築浅の期間は積立金が高くなる傾向がありますが、将来に向けて計画的に積立金を集めることができます。

段階増額積立方式との主な違いは、マンションの築年数が経過した後に増額する必要がないことです。積立金を増額する場合は居住者の合意形成がうまく進まないケースもあるため、増額する場合は慎重に検討する必要があります。

一定の積立金を安定的に確保する均等積立方式は、マンションの価値や寿命を長く保つ観点から国土交通省が推奨しています。

そのため、マンションの購入を検討している方は、修繕積立金の徴収方法を事前に確認しておくことが大切です。

参考:「長期修繕計画作成ガイドライン・同コメント」及び 「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」の改定について(国土交通省)

修繕積立金の主な4つの使い道

分譲マンションの居住者が毎月支払う修繕積立金は、大規模修繕工事以外にも使用する場面があります。

ここでは、工事や修繕のために積み立てていく修繕積立金の主な4つの使い道について解説していきます。

国土交通省のマンション標準管理規約の28条で修繕積立金の使い道は定められているため、詳細についてご覧になりたい方はマンション標準管理規約(単棟型)をご確認ください。

定期的に行われる大規模修繕工事

前章でもお伝えした通り、大規模修繕工事は30年に2度行われることが国の定めるガイドラインで推奨されています。

修繕積立金を区分所有者から積み立てていく主な目的は、こちらの大規模修繕工事を適切なタイミングで実施するためです。
工事には多額の費用がかかるため、十数年に渡って区分所有者から少しずつ徴収することが必要になります。

国土交通省の令和3年度マンション大規模修繕工事に関する実態調査によると、1回目の大規模修繕工事にかかる1戸あたりの工事金額の平均値は151.6万円となっています。

そのため、戸数が50戸で7580万円、100戸で1億5160万円の費用がかかる計算になります。

マンションの建物構造や築年数などの条件によっても工事費は異なりますが、一般的な費用の目安として覚えておきましょう。

地震や台風などの自然災害や事故による被害の修繕

突発的に起こる自然災害や事故が原因で修繕が必要になった場合は、修繕積立金を使用できます。

修繕積立金は、定期的に行う修繕のためにあらかじめ積み立てておくものですが、事前に予想できない災害が起こった場合の補修や修繕の費用としても使用されます。

例えば、「地震でマンションの廊下の床にひびが入った」「台風の影響でエントランスの窓ガラスが割れてしまった」ケースなどが挙げられます。

なお、共用部分のエレベーターの点検やオートロックの修理などの日常生活に関する費用は管理費から充当されるので、修繕積立金との使い道の違いを覚えておくとよいでしょう。

敷地や共用部分の変更

マンションの敷地や共用部分の工事、リフォームなどを行う場合も修繕積立金を使用できるケースがあります。

マンション内の共用部分を変更するためには、区分所有法第17条によって以下のように定められています。

共用部分の変更は区分所有者数の4分の3以上かつ議決権の4分の3以上による集会決議によって行う。

上記の条件を満たした上で、敷地や共用部分を変更することが必要になった場合は修繕積立金を使用できます。

築年数が古いマンションの共用部分の工事や部屋の構造の変更など、用途によって修繕積立金を使用できる状況は異なるので、共用部分の変更を予定している場合は管理会社や住人と話し合うことが大切です。

建物の建て替えや敷地の売却に関する調査

マンションの建て替えにかかる費用は、基本的に住民(区分所有者)が負担します。

解体費用や建築費用、設計費用などに加えて調査費用がかかるため、1,000万円~3,000万円程度必要になるケースが多い傾向にあります。

築年数が経過したマンションの場合は建て替えの必要性が出てくることも考えられるため、住民が積み立ててきた修繕積立金が使用できます。

また、耐震性が不足していることを原因にマンションの敷地を売却する制度が利用できるケースもあります。建て替えとの主な違いは、敷地売却後に建設される建物の用途の制限がかからないことです。

建物の建て替えや敷地の売却を行う場合も住民の生活に影響を与えることから、修繕積立金を使用できることを覚えておきましょう。

修繕積立金が値上がりする3つのケース

マンションの建物や設備の修繕や工事に使用される修繕積立金は、状況に応じて値上がりするケースがあります。

新築当初に予定していた積立金の額が不足している場合や、想定外の修繕に対応するためなど、さまざまな理由から積立金を増額する可能性が考えられます。

ここでは、修繕積立金が値上がりする3つのケースについて解説していきます。

マンション分譲時の初期設定金額が低い場合

新築当初のマンション分譲時の修繕積立金額が低い場合は、後から値上がりする可能性が高いです。

段階増額積立方式を採用しているマンションでは、築年数が経過するにつれて積立金を値上げすることが前提とした計画が組まれています。

国土交通省が令和6年に公表した「長期修繕計画作成ガイドライン・同コメント」及び「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」の改定についてでは、段階増額積立方式の値上げ幅の考え方が示されています。

均等積立方式の徴収金額を基準とした場合、長期修繕計画の初期額は基準額の0.6倍以上、計画の最終額は基準額の1.1倍以内とされています。

マンションの購入を検討している方は、建物の築年数や修繕積立金の徴収方法について事前に確認しておくことが重要です。

人件費や建築資材が高騰する場合

大規模修繕工事などを実施するための修繕積立金を長期に渡って積み立てる過程で、人件費や建築資材が高騰する可能性があります。

建築業界で人手不足が発生したり、賃金コストが上昇したりと時代の流れに合わせて人件費は上昇する傾向にあります。

当初よりも建築資材の価格や輸送コストが上昇すると、当初の予算内では大規模修繕工事の予算が足りなくなるケースも考えられます。

十数年後に訪れる大規模修繕工事のために積み立てておく修繕積立金は、将来的に費用が増加するケースも想定しておきましょう。

計画外の大規模修繕が行われる場合

修繕積立金は、十数年に一度の大規模修繕工事に向けて積み立てていくものですが、そのほかの用途にも使用されることがあります。

地震や火災によって、建物の一部が損壊した場合などの予期しない修繕費用がかかる場合など、計画よりも早い段階で大規模修繕が行われるケースも想定されます。

そこで、長期修繕計画を適切なタイミングで行うための積立金を増額する必要性が出てくるのです。

増額の際の値上げ幅が大きくなると、居住者からの合意を得ることが難しくなる場合も考えられます。

予想外の天災や事故を原因とした修繕積立金の値上げを行う場合は、徴収額を引き上げるタイミングや値上げ幅を調整することが重要です。

最後に

修繕積立金は、マンションを長期間に渡って使用する上で積み立てておく必要がある費用です。
各部屋の区分所有者が支払う必要があり、徴収方法によっては段階的に積立金が値上がりする可能性も考えられます。

マンションの購入を検討している方は、月々に支払う必要がある修繕積立金の平均値をマンションの修繕積立金に関するガイドラインであらかじめ確認しておくことをおすすめします。

また、地震などの天災や社会情勢の変化に伴う費用の増加など、予想外のできごとが修繕積立金の額に影響を与えます。一定の金額を支払い続ける均等積立方式を採用しているマンションを購入することも選択肢の一つです。

結論としては、修繕積立金を徴収する目的や使い道を理解した上で、住宅の種類や購入のタイミングを決めることが大切です。住宅の購入にかかる費用を比較検討した上で、ご自身のライフプランに合った家を購入しましょう。

【監修者】大石 裕樹

【監修者】大石 裕樹

<保有資格> 司法書士 宅地建物取引士 貸金業取扱主任者 / 24歳で司法書士試験合格し、27歳で司法書士として起業。4年で日本一の拠点数を達成する。現在は、不動産の売主と買主を直接つなぐプラットフォーム「スマトリ」を立ち上げ、不動産業界の透明性を高め、すべての人にとって最適な不動産売買を安心安全に実現するため奮闘中。

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